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雪の中を走っている。


行くべき場所も、きっとわかっている。
行かなきゃいけない理由も、きっとわかってる。

だからボクは、雪の中を走っている。



そして

written by 剛久





夕暮れ。
いつものように、商店街をひとり歩く。
まだまだ冬真っ盛り、建物に囲まれていてもやっぱり寒い。
けれど、手にした袋から漏れる甘い香りが、ボクの心をほんの少しだけ暖かくさせる。

歩きながら、袋の中身を取り出す。
いつものお店で、ちゃんとお金を払って買った、大好きなたい焼き。
たい焼きは焼き立てに限るけど、この季節だとすぐに冷めてしまう。
だから、とっとと食べてしまう事にした。
でも、この季節に食べるたい焼きが一番美味しいのも、また事実。

探し物をする為によくこの商店街に訪れるボクだけど、その目的がだんだん変わってきているような気がする。
ボク自身、それが何なのかわからない探し物。
それもきっと大切だけど、今は同じくらいたい焼きも大切、だと思う。
そしてもうひとつ、大事な目的もあったりする。


1つ目のたい焼きを、頭からガブっといって、
向こうのお店から、見知った顔が出てくるのが見えた。

やっぱり、腐れ縁だね、祐一君。

何時か、祐一君本人から聞いた台詞を流用してみる。
腐れ縁でも何でも良い、祐一君に会えるのはやっぱり嬉しいから。

そんな事を思い、口に含んだたい焼きを咀嚼しながら、どんな風に出ていこうか考える。
前に思いっきり飛びついた時は失敗したから、今度は後ろからそっと抱き付いてみようか。
それとも、急に驚かしてみたり。


そんな僅かな間に、出てきたお店の中を見ていた祐一君は、向こうへ歩き出してしまう。
慌てて口の中のものを飲みこみ、祐一君のあとを追い、


同じお店から出てきた知らない女の人が、祐一君の隣に並ぶ。

そして、祐一君の腕に抱きついた。


緩やかな風が吹いていた。
食べかけのたい焼きは手に持ったまま。
良く晴れた空は、眩しいような赤。
追いかける足が止まった。

祐一君が、その人の方を向く。
その横顔は、恥ずかしそうで、少し迷惑そうで、

でもやっぱり、とっても嬉しそうだった。

そのまま、夕焼けに向かって歩いていく。
ボクは、ふたりの後姿を見つめるだけ。
追いかける事は出来なかった。




祐一君の姿が見えなくなって、我に返った。
そして、ボクにはやるべき事――探し物があることを思い出す。

ふいに浮かぶ、映像。

赤い空。
赤い。

去っていく祐一君。
もう会えない。

ボク達の学校。
大きな木。


駆け出していた。
破裂しそうなくらいの心臓の鼓動。
確かめる為に。
多分気のせいだと思いながら、でも足は確かにそこに向かっている。
ボクの通っている、学校へ。





勘違いでも、気のせいでもなんでもなかった。

荒い呼吸を整えようともせず、じっと目の前の光景を見つめる。
切り株。
切られる前はきっと木登りが出来ただろう、そんな大きな切り株。

気が付くと、たい焼きが入った袋を持っていない。
森の中だった。
学校を目指して走っていたボクの目の前に現れたのは、そんな大きな切り株だった。
近くに学校はおろか、建物すらも見当たらない。
でも、記憶している場所は、ここで確かだった。


見つかった、
見つけてしまった、探し物。

見つけなければ、まだ大丈夫だっただろうか?
探そうとしなければ、もう少しここに居られただろうか?

でも、見つけてしまった。
ボクの、探し物。

再び、走り出す。
息が苦しいのが不思議だったが、気にしないで走った。

もしこれが、夢じゃないのなら。
いや、そもそもこれが夢だったのかもしれないけど。

あそこにきっと、今も埋まっているはず。

ボクにはまだ、やるべき事がある。





気が付くと、雪が降っていた。
いつから振り始めたのか、既にかなりの勢いになっていた。

構わず走り続ける。

視界がぼやけて、転びそうになった。
慌てて、目を擦った。
そして走り続ける。
しかし、すぐにまた視界がぼやけてしまう。

これはきっと、この強い雪のせい。
雪が目に入って、とけて、ぼやけているだけ。

そう思う事にした。





やがて、見覚えのある場所へ辿り着く。
祐一君と一緒に、あの人形を埋めた場所。

記憶を頼りに、雪を掘る。
作業がしにくいので、手袋は脱いだ。
悴む指先を我慢して、掘り続ける。


3つだけ願いを叶えてくれる、と祐一君は言った。
まだあとひとつ。
未来の自分の為に残しておいた、あとひとつのお願い。
もう、それにすがるしか無かった。

雪を掘って、地面も掘る。
目印も何も無いこの状態で、人形を探す事自体が無謀かもしれない。
でも。
この人形が必要としている人がいれば、きっと見つかる筈だから。




やがて。
目的のものが見つかった。
入れ物の瓶は割れ、人形は羽が片方取れて、泥まみれだった。
だけど、それでもこれは、祐一君がくれた、どんな願いでも叶えてくれる人形だった。

祐一君は、ボクの事を、ちゃんと、ボクに都合の良いように、覚えていてくれた。

ちゃんと、ボク達だけの学校も、作ってくれた。

例えそれが、ボクの幻想だったとしても。
ボクのお願いを、叶えてくれた。
それはきっと、確かな事。


だから、この人形にお願いすれば、

さっき見た、祐一君の笑顔。
ふいに、思い出される。

手にした人形を、じっと見つめる。

残りのひとつは、未来の自分、
――もしかしたら、他の誰かの為に。
お願いを叶えるのは、祐一君自身。

目を瞑り、人形をギュッと抱き締める。
ほんの少しだけ、冷静になれたかもしれない。

思えば。
ボクが今、ここに居ることが。

それだけで、奇跡。
これ以上、望むものは、無い。


ゆっくりと、立ち上がる。


最後のお願いは、
祐一君、君自身の為に使って下さい。

言うなれば、
それが、ボクの最後のお願いです。









「……祐一君」

夕暮れ。
辺り一面が、赤く染まる。

「……祐一君」

いつものように、ボク達は商店街で会う。
ボクは、祐一君を呼び止めた。

「なんだ、あゆか」
「…………」
「久しぶりだな。 元気だったか?」

「祐一君、あのね……」

言葉が詰まる。
だけど、やっぱり最後には。

「探し物、見つかったんだよ……」

祐一君に、どうしても伝えておきたかった。

「良かったじゃないか」
「……うん」
「大切な物だったんだろ?」
「……うん」

そう。
それは、本当に。

「大切な……本当に、大切な物……」
「見つかって良かったな、あゆ」
「…………」

良かったのだろうか?
本当は、見つからない方が良かったんじゃないのか?

「あのね……」

だけど。

「探し物が見つかったから……ボク、もうこの辺りには来ないと思うんだ……」

やっぱり、これが正しいのだと、思う。

「だから……祐一君とも、もうあんまり会えなくなるね……」
「……そう、なのか?」
「ボクは、この街にいる理由が無くなっちゃったから……」

本当は、お別れを言いに来たのだけど。
でも、どうしても、はっきり言う事が出来なかった。

「だったら、今度は俺の方からあゆの街に遊びに行ってやる」
「……祐一君」

その言葉が、嬉しかった。

「あゆの足で来れるんだから、そんなに遠くないんだろ?」
「…………」
「また、嫌っていうくらい会えるさ」
「……そう……だね」

でも、それよりもっと、悲しかった。


「ボク、そろそろ行くね……」

これ以上は、もう無理だった。

「ばいばい、祐一君……」

これで、最後。
それが、わかった。
最後の、お別れ。

振り返って、夕焼けへと向かって歩く。
背中に感じる祐一君の視線が痛かった。


祐一君……。

君に会えて、心から良かったと思えるよ。
これでお別れなのは、本当に嫌だけど……。

一緒に居た女の人、キレイだったね。
絶対に幸せになってもらわないと、ボク怒るよ。

ボクがたい焼き好きなの、祐一君のせいだったんだね。
あのとき食べたたい焼き、本当に美味しかったよ。

歩きながら、次々に浮かんでくる思い出。
祐一君と一緒に居たのは、ほんの僅かな間だったけど。
でも、祐一君は、ボクに本当に沢山のものをくれた。
だから、本当は、ばいばい、じゃなくて。

祐一君。
どうも、ありがとうございました。


商店街の角を曲がる。
そして、


- Fin -



update:03/04/20
last update:'07/08/21 06:42:41
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