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アイスクリームの味

written by 剛久




「祐一さんも食べませんか?」

そう言って祐一の方を向いた栞は、カップのアイスクリームを手にしていた。
お昼時の公園。
祐一は既に食事を終え、2つ目のアイスに取りかかっている栞の隣に座っていた。

「いや……、俺は遠慮しておく」

温度計が無いので正確にはわからないが、まだ真冬とも言えるこの時期、昼間とはいえ気温はおそらく氷点下だろう。
そんな環境で、良くアイスなんか食ってられるものだな、と祐一は思う。
栞は、寒く無いのだろうか。
祐一自身は今だ食べた事は無かったので、経験から理解する事は不可能だった。

「そうですか……美味しいですよ?」
「美味しくてもなぁ……。 寒くないのか?」
「それは、寒いですよ。 でも、美味しいですから」
「そういうモンかな」
「そうですよ。 という訳で、はい、祐一さんも」

手にした箆でアイスを掬い、それを祐一へ近付ける栞。
心なしか顔が綻んでいるのは、栞もこの状況を楽しんでいるからだろう。
祐一も、別段ここまで拒否する事も無いのだが、何となく惰性で断り続けている。

「ほらほら祐一さん、一思いに食べちゃいましょう」
「近付けるな近付けるな」
「大丈夫です。 もしお腹壊しても、お薬ならたくさんありますから」
「そういう問題じゃないけどな」

「もしかして祐一さん、アイスクリーム、嫌いですか……?」

一転して、今度は悲しそうな表情を見せる栞。
別方向からの作戦か、と祐一は思ったが、それでもやはり栞の悲しそうな顔を見るのはあまり気持ちの良いものじゃない。

「いや、別にそんな事はないぞ、全然」
「そうなんですか? じゃあ、食べて下さい」
「あーもう、仕方ない。 食うよ」

祐一は観念して、アイスクリームを食べる事にした。
その光景を想像すると少し恥ずかしかったが、差し出された箆にかぶりつく。
当然だが、それは冷たかった。

「どうですか、祐一さん」
「冷たい……」
「それだけですか?」
「いやまあ、美味いには美味いけどな。 さすがにこの気温じゃ」
「そうでしょうか? 美味しい物は何時食べても美味しいものですよ」

祐一に諭すようにそう言い、栞もアイスクリームを口にする。

そして気が付いた。
栞の顔が赤くなる。

「あ……」
「……どうした栞」
「この箆、――祐一さんも使いましたよね」
「あ」

祐一も気付き、少し顔を赤くする。
そして、僅かな沈黙があった。

「――ま、まあ、別にそんな事気にするような仲でも無いだろ」
「え、えと……」

祐一にしてみればフォローのつもりだったかもしれないが、栞には逆効果だった。
ますます顔を赤くする。

「あ、いや、まあ……。 とりあえず、アイス食っちまえ」
「は、はい……」


そんなある日の昼下がり。


- Fin -


update:03/04/20
last update:'07/08/21 06:42:43
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