もう一度、確認する。
壁に掛けられているカレンダーの、上から二段目、一番右端を、私は凝視していた。
もう、通算で何度目かは覚えていない。
それくらい、ずっとずっと――たしか一月くらい前からだろうか、その日の事は気にし続けていた。
14という青い数字の上に、緊張して少し歪んでしまった赤い円。
いわゆる、バレンタインデーという日が、もう明日に迫っていた。
コンコンと、ドアをノックする音が聞こえた。
反射的に、私はドアの方を振り向く。
「はーい?」
「栞、お風呂空いたわよ」
「あ、うん、今行く」
それだけ言って、お姉ちゃんは部屋に戻ったようだった。
不意に中断されてしまった思考を、もう一度無理矢理戻す。
そう、明日は、バレンタインデー。
祐一さんと、その、恋人同士……になってから、初めてのバレンタインデー。
この日の為に、1ヶ月も前から準備をしていた。
手編みのマフラーと、手作りのチョコレート。
マフラーは一週間くらい前にもう完成していたし、チョコレートもさっきやっと作り終わった。
両方とも、きっと在り来りで。
でも、私にはそれくらいしか思い付かなくて。
だからこそ、初めてには打って付けだと、自己弁護してみたり。
そしてもう一度、今日と明日の日付を確認する。
……少し、いや、かなりドキドキしてきた。
お互い、プレゼントくらい送った事はある。
けど、どうしてバレンタインだというだけで、これほど緊張するのだろう。
明日のその日に思いを馳せる。
いつ、どこで、どんな風に渡すかをシミュレート。
……やっぱり、緊張する。
そこで頭を一度振って、気持ちを切り替える。
どうせ考えてたって、多分駄目だ。
お風呂に入って、早く寝よう。
心配する事なんて何も無い。
そう自分に言い聞かせ、私は着替えを持って部屋を出た。
時にはこんな、
しかし初めてのバレンタインデー
written by 剛久
―1―
土曜日だった。
この時期、丁度三学期の真ん中辺りで、テストにもまだ日は十分にあったから、皆割とのんびりとした生活を送っているように見える。
勿論俺も例外ではなく、特に変わった事は無かった。
この日は偶然早く学校に来ていて、後から教室に入ってくる人間をぼんやりと眺めながら自分の席でのんびりしている所だった。
教室の後ろのドアから、北川が入ってくるのも確認できた。
「おい相沢。 今日は、――あの日だな」
教室に入り、自分の席に鞄を置くとすぐに、北川はそう話しかけてきた。
「なんだ、あの日って。 そんな回りくどい言い方をするな」
会話の内容がさっぱり見えなかったが、無視するのも可哀想だし、仕方なく会話に乗る事にする。
「またまた、とぼける気か? 今日何日か知ってるだろうに」
「今日は――14日だったか? それが何か……まさか、お前の誕生日だって言うんじゃないだろうな。 何もやらんぞ」
「……本気でわかってないのか? あぁーあ、そうですか、やっぱり彼女持ちには関係無いんだろうな。 はいはい、わかりましたよ」
そう言って、オーバーなリアクションをしてみせる北川。
その不自然さに、俺は普段使ってない頭を少し働かせ、原因を考えてみる事にした。
今日は、2月の14日で、彼女持ちには関係無い……?
「ああ、バレンタインデーか」
すぐにその答えに辿り着き、確認の為声に出してみる。
「なんだ、わかってるじゃないか。 でもあれだ、やっぱりオレら独り身とは違うんだろうなー、この日の感じ方がさ」
「独り身って、人を既婚者のように言うな」
「そうか? 別に大差無いだろう」
「……まあ、とにかくだ。 今日がバレンタインデーなのは良いとして、それがどうしたって言うんだ」
会話の流れを無理矢理修正して、多分本来の道へ戻してやる。
結局、北川が何を言いたいのかは、未だ見えてこない。
「だから、バレンタインデーっていうのは、日頃思っていてもどうしても口に出す事の出来ない想いを伝える事が出来る、言わば魔法の日だ。このオレにだって、そういう健気で純情な娘のひとりやふたり、居たって良いだろうさ」
「――つまりだ。 今日お前にチョコを持ってきてくれる事を期待して、そんなに浮かれている訳か」
「別に、受かれてる訳じゃないけどな。 相沢ぱっかりモテるのは不公平だと思って」
なるほど、そういう事。
だったら確かに、俺にはあまり関係が無いかもしれない。
一応彼女が居る訳だし、そんな出会いに期待する必要などこれっぽっちも無い。
そもそも、甘いものはあまり好きじゃないし。
「お前、そんな事言って、香里はどうしたんだ」
「……何の事だか俺にはさっぱりだ」
急に視線を逸らす北川。
割とバレバレだったりする。
これが演技だとしたら、それはそれでかなり凄いと思う。
そんな会話をしていると、教室に香里が入ってくるのが見えた。
いつもは香里の方がずっと早く来るから、こんな機会は滅多に無い。
香里の席も俺の近くなので、当然こっちへやってくる。
そして、名雪と『今日は珍しく早いわね』『わたしだってたまには早起きするよー』という内容の会話をした後、鞄から何かを取り出し、こちらへ向かってきた。
「北川君、ちょっといいかしら?」
いつものような少し澄ました表情で、香里はそう話しかけてきた。
「ど、どうした美坂?」
さっきの会話の影響か、声が僅かに上擦る北川。
ハイ、と軽い感じで、その持っていたモノを北川に渡した。
そしてその後、『義理だからね』と付け加える。
一方北川はというと、これがまた面白い表情をしている。
目を丸くしたまま、その包みと香里を何度か見比べ、そして、
「あ、ありがとう……?」
と、なんとか声を絞り出す。
なんで疑問形なんだ。
「おい香里、俺には無いのか?」
あまりこの空気を維持するのは北川にとって酷だと思い、俺も会話に参加する事にした。
「相沢君には、別にあげる必要は無いと思うわよ?」
そう言って、不敵に笑う。
まあ、何となく想像していた事だが、つまりは栞が用意してくれている、と言いたいのだろう。
そう察し、俺は僅かに肩を竦めて見せた。
「放課後、渡しに来るみたいよ。 まあ別に心配はいらないと思うけど、ちゃんと受け取ってやってよね」
「当たり前だ」
それだけ言い残すと、香里は教室から出て行った。
時計を見ると、ホールルームまではまだあと少しあるようだった。
「義理かぁ……」
香里が居なくなり、少しは落ち着いた北川がそんな声を出す。
その言葉とは裏腹に、かなり嬉しそうに見えた。
「なあ名雪、香里って、義理チョコ渡すような奴なのか?」
ふと思い立ち、まだ僅かにトランス状態の北川に聞こえないように、小声で名雪に聞いてみた。
「え? うーん、そうだね、わたしは見た事無いと思うよ。 あ、祐一にも、家に帰ったらあげるから。 お母さんと一緒に作ったやつ」
「おう、サンキュ」
なるほど……。
確かにさっきの香里は『普段の香里』を強調していたような気がしなくも無い。
でもまあ、俺がいくら推測してみたところで、特に意味は無いか。
そう思い返し、その包みをやっぱり嬉しそうに鞄にしまう北川を横目に、俺はホームルームと放課後を待つ事にした。
―2―
とりあえず、祐一さんの教室の前まで来てみた。
まだホームルーム中らしく、その教室に人の出入りはなかった。
ほんの少しだけ安心して、でもすぐにその無意味さに気付き、また落ち込む。
はあぁ……どうしよう。
思考は悪い方へしか進まない。
溜息だって出る。
いくら私でも、まさかこんな事になるなんて。
お姉ちゃんは、きっと頼んだ通り祐一さんに伝えてくれただろう。
だから、今更引き返す事は出来ない。
ガラリ、と音がして、我に返った。
見るとどうやらホームルームが終了したらしく、早くも生徒達が教室から涌き出てくる。
どうしようどうしようと迷いながらその光景を見ている内に、私の目にその人の姿が写った。
祐一さんが、教室から出て来た。
もう、仕方が無い。
一度目を瞑って、決心をする。
そして、私はその人の方へ向かっていった。
「おお、栞か」
祐一さんが私に気付き、声を掛けてくれる。
「祐一さん、ごめんなさいっ!」
私は祐一さんの前まで行くと、兎にも角にも謝った。
「ど、どうした栞? 何かあったのか?」
「あの、ホントに、ごめんなさい」
急な私の発言に戸惑う祐一さん。
私ももう興奮してしまって、とりあえず誤る事しか出来なかった。
「祐一さん……。 あの、今日、バレンタインデー、ですよね……」
「お? お、おお、そうだったな」
祐一さんに謝る事で少しは――ほんの少しだけ気が楽になったような気がして、私はその理由を話し始めた。
「その、実は、――チョコレート、無いんです」
「え? 無いって、どういう――」
「いえ、違いますっ! えっと、無いというのは、今、ここには無いという意味で、その、つまり、……家に、忘れてきてしまったんです」
言い終えた後、祐一さんの顔を見ると、すぐにその意味を理解してくれたようで、いつものような笑顔になって。
「なんだ、そういう事か。 それは別に謝るような事でも無いと思うぞ」
そう言って、私の頭に手を乗せ、まるで犬の頭を撫でるように軽くぽんぽんと叩いた。
それがちょっとだけくすぐったくて、私は首を僅かに窄める。
「まったく、急に謝り始めるから、何事かと思った」
「あ、はい、済みません……」
祐一さんとの会話で、だいぶ心は落ち着いてきた。
やっぱり、心配ばかりしてないで、行動に移した方がよい事もあるみたいだ。
「あの、という訳で、これから家に帰って、取って来ようと思ってるんですけど」
授業中も考え抜いて、多分最善だと思う手段を提案してみる事にした。
すると祐一さんは、少し考える仕草を見せたあと、
「そうだなぁ……。 だったら、俺も一緒に行ってもいいか? 待ってるってのも退屈だし」
そんな事を言い出した。
「え、祐一さんが、私の家に?」
思わず、その意味を要約して声に出してしまった。
「あいや、別に迷惑だったら別に良いんだけど」
「そんなっ、迷惑なんかじゃないですよ」
祐一さんの言葉に反論する声が、思っていた以上に大きくなってしまった。
「いや、そんな強く否定しなくても……。 ま、いいや。 じゃ、早いとこ行こうか」
そう言って、祐一さんは歩き出す。
「はいっ、そうですね」
言いながら、私も急いで祐一さんの後を追った。
―3―
「ここが栞の家か」
目の前にある家を見ながら、そんな事を呟く。
「祐一さん、来た事あるじゃないですか」
即、栞にツッコまれた。
栞の言う通り、ここに来るのは初めてではなかった。
中に入った事も、何度かある。
栞が俺の前に出て、玄関の鍵を開けた。
そして、中に入っていく。
「さ、祐一さん、どうぞ」
玄関で振りかえって、栞がそう言った。
「それじゃ、お邪魔します、と」
栞の言葉に従い、俺も家の中に入る事にした。
「えっと、それでは祐一さん、ちょっと待ってて下さいね」
そう言って栞は、辺りをきょろきょろと見回す。
どうやら、置き忘れたチョコレートを探しているようだった。
特にする事も無かったので、俺も辺りを見まわしてみる事にする。
当然、俺が探したところで見つかる見込みは無いと思うが。
居間を調べ、無い事を確認すると、今度は台所へと向かう栞。
俺は既に探すのを止め、その動作を何となく眺めていた。
そして少しの間の後、栞は再び戻って来た。
その表情には、僅かに焦りの色が見て取れた。
「おかしいですね……2階かな?」
そう呟いて、階段の方へと向かっていく栞。
どうしようか迷ったが、俺は居間に残る事にした。
何となく、立っているのも不自然な気がしたので、ソファーに座って待つ。
もう一度だけ辺りを見まわして、やはり人の気配がしない事に気付く。
玄関の鍵を栞自身が開けた事からも、この家には誰も居ないという事は予想がついていた。
いつもは大抵香里が居たのだが、今日は部活だろうか、その姿は見えない。
両親も、きっと仕事か何かで忙しいのだろう。
そんな事を考えている内に、2階から急ぎ気味に栞が降りてきた。
その手には、チョコレートが入っているにしては少し大きめの袋が握られている。
「あの、祐一さん……。 これなんですけど」
目の前まで小走りにやって来ると、そう言って持っていた袋を手渡してきた。
「サンキュ、栞。 開けても良いか?」
それを受け取り、一応栞に尋ねてみる。
栞が頷くのを確認してから、俺は袋の中身を取り出してみた。
中に入っていたのは、手のひら2つ分くらいの白い箱と、恐らく手編みだろう、ライトブルーのマフラー。
「もうすぐ冬も終わりですけど……」
そう言った栞の表情は、心なしか緊張しているように見えた。
「別に春になったって、寒かったらグルグル巻いてやるさ。 どうもな、栞」
だから俺は、ちょっと冗談めかしてそう言ってやった。
「あはは……グルグル巻くんですか? ありがとうございます」
そう言って二人、笑いあう。
次に、箱の方を見た。
恐らく、これがチョコレートだろう。
形は、きっとハート型。
そんな勝手な想像をしながら、俺はその箱を開けてみる。
予想通り、形はハート型だった。
そして、その上に、多分ホワイトチョコレートで書かれた、『To My Valentine Yuichi』の文字が。
「これ……どういう意味だ?」
残念ながら英語力に乏しい俺は、Valentineの意味はバレンタインデーくらいしか思いつかなかったので、栞に聞いてみた。
「えっと、Valentineというのは、『恋人』っていう意味があるんです。
だから、祐一さんに送るのは、この言葉が良いんじゃないかって、お姉ちゃんが」
「ああ、なるほど」
栞の説明を受け、やっと意味がわかった。
そうか、Valentineってのはそういう意味だったのか。
理解すると同時に、普段慣れない表現に少し気恥ずかしくなった。
「祐一さん、確か甘いの苦手だって言ってましたよね。 だから、少し甘さを抑えてみました」
「それは有り難いな。 いや、栞から貰ったチョコだ、元々全部食べるつもりだったけど、甘くないのならそれに越した事は無い」
そう言って、早速食べようとして、
「ところで、これはどうやって食えばいいんだ?」
製作者の意向を聞いてみる事にする。
「どうって……そのまま食べるんじゃないですか? さすがに調味料はいらないと思いますけど」
「いや、そういう意味じゃなくてだな。 つまり、このままガブっといっていいのかな、と」
「あ、そういう事ですか。 ええ、別に構いませんよ。 食べてもらう為に作ったものですから」
それを聞いて、少し安心した。
正直、いくらデコレーションに凝っていても、元が食べるものならばそれは食べるべきだと思っている。
というわけで、言葉通りガブっと――と思ったが、流石に食べにくそうなので、割って食べる事にした。
パキン、と良い音がした。
そしてその欠片を、口に放り込む。
「ん」
「……どう、ですか?」
「うん、美味い。 これ、手作りだろ? 良くここまでの味が出せるもんだ」
「良かったです……けど、基本的に材料の味そのままですし。 それに、沢山練習もしましたから」
そして、そのチョコレートを二人で半分ほど食べた。
栞が食べたのは、ほんのひと欠片くらいだったが。
「さて、じゃあ残りは後で食うかな」
言いながら、箱を鞄に仕舞う。
「まだ昼飯前だし、あんまり食ったら差し支える。 それに、勿体無いし」
そして、そう付け加えた。
「別に、チョコレートくらいいつでも作れますけど。 でもそうですね、お昼ご飯まだでした」
時計を見ながら、栞も賛成する。
「さて、んじゃ、どうするかな……」
俺も同じように、時計を見た。
「えっと、祐一さん……」
栞が話しかけてきて、そこで僅かに間を置く。
「もしよろしければ、私が作りましょうか、お昼ご飯」
「ん、そうだな……」
言いながら、僅かに考えた。
家で秋子さんが準備してくれているかもしれないが、そっちは連絡すれば問題無いだろう。
思えば、弁当以外に栞の手料理を食べる機会なんて、今までには無かった筈だ。
「栞が良いって言うんなら、お願いする」
「はい、わかりました。 それでは、お願いされます」
そう言って、栞は嬉しそうに立ち上がる。
「簡単なものしか作れませんけど……今から準備しますから、少し待ってて下さい」
「いや、俺も手伝うよ。 どうせ待ってても暇だろうし」
料理なんてした事は殆ど無いが、それでも手伝いくらいは出来るだろう。
暇だから、というのも本音だが、一緒に料理するのも楽しいかな、と思うのもまた本当だった。
「そうですね……それでは、一緒に作りましょう」
そして、二人の料理が始まった。
俺に与えられた仕事は、味に直接関係しないものばかりだった。
今は、野菜を切っている。
まな板に向かって、包丁を振り下ろす。
特に不器用、という訳ではないので、包丁くらいは難なく使える。
ジャガイモの皮を剥きながら、ふと栞の方を見た。
栞は、黄色のエプロンをして台所に向かってる。
なんか、こういうのって良いなぁ、とか思った。
まるで新婚夫婦――とか考えている自分に気付く。
そして、指先に激痛。
――激痛?
「――っっ!!」
思わず、声にならない悲鳴を上げた。
ぼーっとしながら刃物を扱っていたので、手元が狂ったようだ。
見ると、左手の人差し指から血が滲んでいた。
痛みは酷かったが、傷自体はそれほど深くないようで、少し安心する。
「祐一さんっ、どうしました!?」
俺の様子に気付き、栞が駆け寄ってきた。
「いや、別にたいした事無いって」
「わ、祐一さん、指から血が出てるじゃないですか!」
「これくらい、全然何ともなッ!?」
栞は俺の手を取ると、何を思ったか怪我をした指先を口にくわえだした。
「し、栞っ?」
そんな情けない声も出てしまう。
指先が、くすぐったかった。
「あ……す、済みません」
慌てて栞が口を離す。
「い、今絆創膏持ってきますから」
そして、小走りに台所から去っていく栞。
その後ろ姿を半ば放心状態で見送る。
左手の人差し指を確認して、俺は何となく恥ずかしくなった。
栞が絆創膏を持ってくるまで、一歩も動けなかった。
―4―
それから、二人で一緒にお昼ご飯を食べた。
途中でちょっとアクシデントもあったけど、料理自体はちゃんと出来たと思う。
祐一さんも、美味しいと言ってくれた。
「でさ、その後にこう、鳩尾の辺りにズビッと、チョップが決まったんだよ」
「それは、痛そうですね……」
「そりゃもう、気失うかと思ったよ、マジで」
祐一さんと、たわいない雑談。
半日授業の日の午後という事で、何処かに出掛けようかという案もあったのだけど、結局家でのんびりする事にした。
たまには、そんな日も良いと思う。
祐一さんと過ごす、初めてのバレンタインデー。
他の、いわゆる恋人たちが、今日という日をどうやって過ごしているのかはわからないけど。
初めてだから、他に基準も無いし。
次もあれば、また違った日になるだろうし。
だから、今回は、これが普通。
結局、好きな人と一緒に居られるのが、一番嬉しい。
「そうですよね、祐一さん」
そんな事を考え、口に出してみる。
「え? 悪い、何の話だ?」
思考の過程は話してないので、祐一さんは当然そんなリアクション。
だから、私は微笑んでみせた。
それだけで、祐一さんが居てくれるだけで、満足だった。
2月14日。
私にとって、初めてのバレンタインだった。
- Fin -